最後の贈り物

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  • 更新:2015年8月 7日
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ピピピピッ! ピピピピッ!

ふわぁ~! んー 3時半か・・
さすがに眠い
だいたい、明日は波乗りだってーのに、夜中まで彼女につき合って
さんざん仕事の愚痴聞かされたもんなぁ・・
まぁ 可愛いから許す!
さて、さっさと起きて支度しよ
新しい板も昨日届いたし、今日はこいつの進水式だしな

6月も後半になるとさすがに夏
朝も4時過ぎれば明るくなる
東の空も薄紫に明るくなり、ピーカンの予感
ん~ 絶対良い波に当たる
鏡みたいな面ツルのパーフェクトウェーブ
このおんぼろワゴンにポリタンク積んで
いつもは彼女が占領しているナビシートに新しい彼女・・
じゃなかった
新しい板載せて、東を目指そう

サーフボードって、ものすごくセクシーだと思う
こうして助手席に乗せると
ついニヤついてしまう
こんな顔、絶対あいつには見せられないな

「ちょっと! 板と私とどっちが大事なの?」
「そんなん、きまっているよ 彼女が大事だろ 普通は」
「あんた 普通じゃないから聞いてんのよ!」
「はい はい 太陽と風と波の神様に誓って 彼女が大事です」
「それ、全部波乗りの神様でしょ!」
「全然信じらんない!」
「わかった わかった 降参!」
「じゃ もうすぐ二人の記念日だろ」
「何欲しい?」
「もう! すぐそうやって物でつるんだから」
「だって、つられるじゃん(笑)」
「じゃ 指輪欲しい!」
「了~解!」

目の前のバックミラーに、チェーンでつながれて揺れてる指輪
シンプルなシルバーの指輪で、太陽と風と波のマーク
これ渡すと、あいつまた怒るかなぁ~

「あんたの頭の中って波乗りの事しかないの?」

でも、一番自分らしいしから、気に入ってくれるかな
一人で波乗りにいって、いつも置いてけぼりだからな
普通怒るか・・

花輪インター過ぎたから、この時間だとあと1時間もあれば海だ
なんか、絶対良い波に当たる予感



うわぁ!
あっぶねぇ~な
前のトラック いきなりブレーキかけんなよ
まったく 酔っぱらい運転かよ!
って、後ろもトラックじゃん
やばいやばい 運転に集中しなきゃ

それにしても、今日はマジ天気良い
朝5時でこんなに気持ち良いんだもんなぁ
海 もうすぐだな
かすかに聞こえる潮騒と潮の匂い
何度波乗りに来ても、海に着くまでの時間はワクワクする
天気図見て、波無いってわかっていても、ビーチの手前ではつい走り出してしまう

おーっ すっげー!
風もない、グラッシーな面、綺麗な三角波がパーフェクトに割れている
サイズも申し分なし
これぞ、太陽と風と波の神様からの贈り物だ
それにしても、こんな波で誰一人波乗りしてないとは
まっ 日頃のおこないが良いと、こんな波をプレゼントして貰えるんだな
とっとと着替えて、波乗りしよっと
神様達に 感謝! 感謝!
おっと 指輪こんなところに置いて
誰かに持って行かれちゃったら嫌だからな
忘れず首に掛けてっと



ふ~ さすがに疲れたぁ~

「神様 もう乗れません ごちそうさまです(笑)」

って贅沢すぎるか
こんなパーフェクトな波を独り占めできたんだから
それにしても、気持ちいぃ~
こうして板に乗って仰向けになっていると
太陽に溶かされて、そのまま波に消えてしまいそう

いつか、こんな海 あいつにも見せてやりたいな・・

「え”~ 海の中って何がいるかわかんないじゃん!」
「それに、波あると怖いし」
「今度ね」

今度ね っか(笑)
そいえば、あいつと始めて海に来たのはいつだったかなぁ?
そういう事忘れると、決まって怒るんだよな
そしてまた財布が軽くなる・・
そだ、この指輪は海に来て渡そう
あいつの笑顔、まさに神様からの贈り物だしな

ヤバ マジで眠くなってきた



「ねぇねぇ 圭介ー!」
「ん?」
「こんな早い時間なのに、全然車進まないね」
「せっかく海に行くからって早起きしたのにね」
「そうだね なんか事故でもあったのかなぁ?」
「交通情報聞いてみようか」

・・・情報です
本日未明過ぎ、花輪インター下り方面にて、トラック2台とワゴン車の衝突事故のため
現在、京葉道路下りは片側1車線に規制されています
通過には・・・かかる・・・次の情報は6時・・・



「ママぁ~!」
「ママったらぁ~!」
「ユミちゃん 一人で海の方に行ったら危ないでしょ」
「こっちいらっしゃい!」
「ママ見て ほら あの貝殻の横で何か光っているでしょ?」
「あれなぁ~に?」
「あら、指輪ね 誰かが落としていったのかしら」
「ねぇ ユミにも見せて」
「わぁ~ 綺麗 太陽さんと あとなんだろ?」
「ママ 裏になんか書いてあるよ なんて書いてあるの?」
「ん〜 D to H かな きっと大切な人へ誰かが送ったプレゼントね」
「ねぇねぇ これユミが貰ってもいい?」
「ダメよ きっと心のこもったものだから」
「そこの、波乗りさん達があつまる店に預けておきましょうね」
「誰かが探しに来るかもしれないから」


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