カラフルなドラ焼き

もうずいぶんと昔になるけど、凄く仲の良かった女の子がいて、その母親とも結構親しくしていた。
だもんで、毎週のように彼女の家に遊びに行っては、居間でビデオみたり、一緒に料理作ったり、色んなこと話し合ったり、昼寝したりしてた。

ここん家の冷蔵庫がドラえもんのポケットみたいで、母親が気に入った物とかあるとすぐ買って来ちゃうし、週に何回かは食材宅配みないなの来てたしで、いつも賑やかな冷蔵庫だった。
ただ、量が多いもんだから、使い切れなくて賞味期限切れの食材も結構あって、当初の食材とちがう食材になっていたりするから、料理作るときは気を付けないといけない。

実際、僕は賞味期限を2週間も過ぎたヨーグルトも食ったし、同じく1週間くらい賞味期限の過ぎちゃった牛乳とか知らずにのんだりした。
僕が彼女に涙目で訴えると、彼女は母親に

「もー 古くなったの入れてちゃダメでしょ!」

「あら だいじょうぶよ それくらい」
「賞味期限って、余裕みて書かれてるんだから」

牛乳の賞味期限が1週間も幅をもっているとは知らなかった。
もっとも、たしかに平気だったし、とくにゲーリークーパーにもならなかったけどね。

人間学習するもんで、それ以降は、一応賞味期限をちゃんと確認してからじゃないと飲まないし、食べないようにしていた。

でもね、人間隙ができるときってあるでしょ?

その家の居間に仏壇があって、ここにはいつも、果物とか、まんじゅうとか、お菓子とか供えてあって、食い意地のはっている僕は、それらを見つけると

「これ食っていいの?」

と、すかさず聞いて、ちゃんと両手を合わせてから美味しく頂いてた。
さすがに、こっちはそんなに長いこと供えてあるわけじゃないし、賞味期限とかもそれほど気にしてなかった。

その日も、美味しそうなどら焼きが何個かお盆に乗っかっていたから、あんこ物に目のない僕は

「これ食っていい?」

「ん? どら焼きね いいんじゃない食べても」

「じゃ 1個もらうね」

といって、包みを開いて、1/3位をパクリ。
ビデオかTV見ながら食ってたんだけど、なにげなく食ったどら焼きを見てみると、何故か、あんこの部分に黄色の斑点がびっしり。

<あれ? おれフルーツケーキ食ってたっけ?>

まだこの時点では、事態に気が付いて無くて、咀嚼したどら焼きをちょうど飲み込んだところ。

「ねぇ なんでこのどら焼きこんなカラフルなの?」

目が (・・) で、真っ青になる彼女。
僕もこの時点で事態に気が付いた。
を”ぇ~!
そいえば、ちょっと酸味がするし、ネットリしている。

「これって  カビ  だよね・・・」
「もう少し食べちゃったよ・・・」

えづきまくる僕を気遣いながら、早速母親に電話する彼女。

「えー あれ食べちゃダメよ」
「もう 2週間以上もあのままなんだから」

2週間経ったヨーグルトを食べようが、1週間経った牛乳を飲もうが全く動揺しなかった母親が、食っちゃダメだといっている代物だ。
それ聞いた時点で、一瞬意識が無くなった。

遠のく意識の中で、人間油断しちゃいけないと思った。
彼女も、これは絶対にヤバイと思って、ちゃんと生きてたら何でも言うこと聞いてくれるって言ってくれた。


でも、食中毒にもならないし、ゲーリークーパーにもならなかった僕のお腹って・・・
そのあと、落ち着いてから、二人で腹抱えて笑った。

ってことで、ちゃんと生きていたから、何でも言うこと聞いてくれるって言ってくれた彼女に、スペシャルなお願いをして、こんなことなら、腐ったどら焼きくらい、もう2,3個食っても良いかなと思った。

でも、マジ死ぬかと思ったよ。今は懐かしい思い出だけど。