世の中の変遷

もう遙か昔のことだけど、高校生の頃、そして卒業してからもしばらくは、夏に必ずキャンプに行っていた。
だいたいが、怠惰なバンド仲間の集まりである。そもそも計画性が無い。
というか、計画はするのだが、計画通りに進められないと言った方が当たってるか。
そんな奴等が集まってのキャンプだから、果てしなくギャグに近い。

たしか初回のキャンプだったと思う。
他のキャンプサイトでは夕食の準備で忙しい時間、我らは日が沈むまで猿のように海で遊んでいる。
当然、夕ご飯は暗闇での作業になるわけだ。
ランタンなどという気の利いた物を持ってくる奴は居るはずもなく、出来る料理は闇鍋(闇カレー?)と大差がない。
初日の夜はまだ食材もふんだんにあり、若さに後押しされる飽食には際限というものが無い。
3泊4日分の食材は跡形もなく1夜にして消えてしまう。
そして、満腹ライオン達は、飲み疲れ、騒ぎ疲れて眠りにつく。
ある者は砂に埋まり、ある者はテントらしきシートにくるまって。

そして、悪夢の3日は始まる。

予備の食料として、カップラーメンだけは何故か沢山ある。
たしか、何処かの親がケースで差し入れてくれたものだと思うけど、今の時代みたいに豊富なバリエーションは無く、カップラーメンといえば日清カップラーメン。
まだカレー味さえ出てない時代だ。
残り3日の朝昼晩、食べるものはそれしか無い。
もちろん金も無いし、あったところで買い出しには数十キロ歩かなければならない。
救出されるのは2日後の夕方・・・

お湯を掛ければできあがるわけで、カップ麺ほど簡単な食料はないわけだ。
にもかかわらず、誰がお湯を沸かすかで、壮絶なバトルが繰り広げられる。
といっても、延々と続く口喧嘩で、根負けした奴がお湯を沸かしに行く。
余計なことに体力を使いたがる癖に、まったく怠惰だ。

最終日の昼あたりから、もうカップ麺は見るのも嫌になってくる。
僕は、お湯を入れ、3分間じーっとカップ麺を見つめる。
さらに、3分間位見つめた後、足下の砂を掘り始める。
ゆっくりと数歩後ずさる。
雄叫びをあげながら、掘った穴に向かってカップ麺を思いっきり投げつける。
狂ったように足で砂を蹴って穴を埋める。
そして、上から何度も何度も踏みつける。
肩で息をしながら、はぁはぁ言っている僕を無言で見つめる仲間達。

僕はそれから数年間カップラーメンは食えなかった。


世の中は移り変わり、今は良い時代になった。
ヘタすりゃ、不味いラーメン屋で食うより、カップ麺の方が美味かったりする。
そんな今日この頃、僕の後輩が無謀にも「カップ麺30日生活」をやるそうだ。過去に「マクドナルド30日」「カレーだけで30日」をやり抜いた漢(おとこ)だ。
漢と見込んで、まっちゃん。ルールの1つに「元祖日清カップラーメンだけ3日間」っての是非入れて欲しいぞ。
きっと浦安の砂浜に穴掘りたくなるから。

出張先ではどうするかって?
そりゃーあんた、ベビースターラーメンでしょ。そのまま食えるし。