「もっと自分に素直になりなよ!」
「その方が楽しいよ」
道を歩きながら彼女が半分怒ったように言う。
とくに返す言葉も見つからないから黙って隣を歩いている。
たしかにそう。
もっとストレートがいいに決まってる。
問題は、同じ言葉を僕も彼女に言うべきかどうか迷っているうちに先に言われてしまったことだ。
お互い様だ。
彼女のアパートまでの道は、商店街を1本外れて、いずれはこちらがメインストリートになる予定の、今は閑散としている、とても気持ちの良いケヤキ並木の坂道。
その坂道の中腹にある、石の階段を上がった1階とも2階とも分からない場所にある部屋が彼女の部屋だ。
玄関がやたらと広い。
正面に水槽がおいてあるのかと思ったら、昔の商店にあるようなガラスのショーケースのドリンク用冷蔵庫だった。
「あっ! あれね」
「安かったから買ったのよ」
「いいでしょ?」
「綺麗だし、ビール沢山はいるしね」
なるほど。
たしかに、綺麗だしビールもしこたま入る。
というか、しこたまビールが入っている。
1本とりだしてプルトップを空けて半分ほど飲み干す。
「ねぇ 一緒に住まない?」
「ビールもいっぱいあるし」
なるほど。
それは妙案だし、とても素直な言葉だと思う。
ただ…
ただその前に…
「トイレを貸してもらえないか?」
ってとこで、猛烈な尿意に襲われて目が覚めた。
なんやら、こんかいもよく分からん夢だ。
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